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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)6015号 判決 1965年3月16日

原告 石毛銀一

被告 東武製鉄株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告会社の昭和三九年五月三〇日開催の定時株主総会における別紙目録<省略>記載の各決議はいずれもこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。

「一、被告は発行済株式数六〇万株の株式会社である。

二、原告は被告の一七、三六三株の株主である。

三、被告は、昭和三九年五月三〇日午前一〇時、定時株主総会を開催し、同総会において別紙目録記載の各決議をした。

四、右総会には、被告の五七二、三二〇株の株主である訴外日綿実業株式会社が出席し、議決権を行使した。

五、右議決権の行使は、実際には、右訴外会社の代理人である訴外松本一男によりなされた。

六、右訴外人は、前記訴外会社の鉄鋼第一部長ではあるが、被告の株主ではない。

七、被告の定款第一九条第二項には、「株主は他の出席株主に委任して議決権を行うことができる。」との規定がある。

八、よつて、本件株主総会の各決議は、「株主でない者が、株主を代理して議決権を行使しており、株主総会において議決権を代理行使することができる者を株主に限つた前記定款の規定に反しているから、取り消されるべきである。」

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。

「一、請求原因一ないし四および六の事実は認める。

二、同五のうち、議決権を実際に行使した者が日綿実業株式会社鉄鋼第一部長松本一男であることは認めるが、同人が日綿実業株式会社の代理人として議決権を行使したことは否認する。すなわち、同人は、右会社において、鉄鋼第一部長として被告関係の事務を担当しているので、その組織の一員として、代表取締役の代行者として議決権を行使したものである。

三、請求原因七のうち、被告の定款に原告主張のような規定のあることは認めるが、その規定は商法第二三九条第三項に違反するから無効である。

四、かりに、本件株主総会の決議方法に原告主張のようなかしがあつたとしても、日綿実業株式会社は被告の発行済株式数六〇万株のうち三分の二以上である五七二、三二〇株の株主であつて、松本一男の本件議決権の行使は、右会社の意思にもとづくものであるから、被告が再度株主総会を招集し、同一議案を付議しても、本件と同様の決議がなされることが明らかである。したがつて、原告の本訴請求は裁判所の裁量により棄却さるべきである。」

立証<省略>

理由

原告の請求原因事実のうち、一から四までおよび六の事実は、当事者間に争がない。

そこで、松本一男による訴外日綿実業株式会社所有の株式の議決権の行使の性質を検討する。本件で、松本一男が右訴外会社の鉄鋼第一部長の職にある者であることは当事者間に争がない。

このように、株主である会社の商業使用人がその会社のため株主総会に出席して議決権の行使をするのは、特段の事情がない限り、会社内部における指揮命令系統にしたがつて行われる職務の執行にほかならず、かゝる場合は、たとえ代理の形式をとつていても、実質的には会社代表者の職務の一部の代行ともいうべく、通常の委任による代理とは類を異にするものとみられる。そして、このような議決権の行使は、議決権行使の代理人の資格を総会に出席した他の株主に限る旨の被告の定款の規定が有効なものとしても、この規定の趣旨に反しないものと解するのが相当である。

よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 服部高顕 八木下巽 元木伸)

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